Story

この吉川電気商会は、私の祖父が今から50年以上前に営んでいた電気屋さんです。
開業当時は、戦後復興の象徴である高度経済成長が始まった頃。これから物質的に豊かになっていこうとする時で、皆が夢や希望に満ち溢れていた時代でした。
その当時、カラーテレビや冷蔵庫などは最先端の家電。この佐味田界隈ではどの家庭にも置いてなかったので、近所の方は「吉川電気商会」で家電を買っていき、徐々に便利な世の中を実感することができた。そんな時代でした。
戦後、何もない貧しい時代から、物質的に豊かになっていく。その一役を担っていたのが、「吉川電気商会」でした。

その祖父は、私が生まれる前に病気で他界しましたので、当然私は一切会ったこともなく、一緒に過ごした思い出など何もありません。祖母や母からの話でしか登場してこない遠い存在の人でした。
祖母は常々、祖父は非常に厳格な性格であったということ、そして大変働き者であったという事をよく話してくれました。あまり得意ではなかったお酒も、「仕事の為なら」と無理に飲んでいたこともあったと聞いています。

それほどまでに、この吉川電気商会にかける思いが強かったのだと思います。
祖父が亡くなってからは、祖母が、電池や電球、蛍光灯など、わずかな商品だけを近所の方にお売りするだけの形で引き継いでいました。
商売としては成り立たず、祖母や曾祖母は靴下の内職などをしていました。私も小学生の頃は、遊び半分で「靴下のひっくり返し」や「留め金具付け」などを手伝うこともありました。
その内職をしていた場所が、この吉川電気商会の倉庫でした。

内職だけでなく、祖母は倉庫の一角にガス台を置いて、そこで料理もしていました。
揚げ物など、油ものをするには、家の中よりも最適な場所だったのだと思います。
そこで、てんぷらやドーナツをよく揚げていました。
小麦粉と砂糖と卵とタンサン(重曹)。これ以上ないシンプルな材料で作ってくれた揚げたてのドーナツを喜んで食べていたことを今でも鮮明に覚えています。
倉庫の中は、いつも物で溢れていました。昭和の電化製品。電気工事に使っていた道具類や金属類、それ以外にも昔の農機具や、餅つきの杵と臼。どこから貰ってきたか不明の食器やタンスなど。

このオープンに先立ち、倉庫の中を大掃除しました。出るわ出るわ、不要なもの。
いつからしまい込んでいたのかわからない毛布や、親戚なのか他人なのかもわからない結婚式の内祝いの品、などなど。
この物で溢れた倉庫ですが、幼いころの私にとっては日常の風景。それどころか、最高の遊び場でもありました。かくれんぼをしたり、友達を呼んで遊んだりしていました。

とても思い出深いこの場所で、なぜコーヒー焙煎所をすることになったのか?
それには、先ほど申し上げた通り、大きく2つの理由があります。

1つ目は、吉川電気商会のエピソードでもお伝えした、私の祖父の存在です。
吉川電気商会を立ち上げ、命を削りながら必死で働き、道半ばで亡くなったことは無念であったに違いありません。
祖父は、吉川電気商会を継続し、更なる地域活性や社会貢献を夢見ていたことと思います。
その祖父の「夢のつづき」を引き継ぐという決意から、屋号をそのまま「吉川電気商会」とさせていただきました。半世紀以上の空白期間を経て、ようやく「夢のつづき」のバトンを繋ぐことができたことに、何とも言えない不思議な縁を感じております。
コーヒー焙煎所なのに、「電気商会」とは意味不明。しかしながら、上記の理由から「吉川電気商会」の屋号を引き継いでいる。ということを知っていただければ、この意味不明な感じが逆に強烈なイメージとして皆さまに認識していただければ有難く思います。

そして、2つ目の理由として、「河合町の地域活性」を挙げました。
それではなぜ電気店でなく、コーヒー焙煎なのか。
正直に申しますと、ここでコーヒーを扱う絶対的な因果関係はありません。
私自身、どちらかと言うとコーヒーは苦手な方でした。
30歳を過ぎてから、ようやくコーヒーが飲めるようになったぐらいです。
はっきりと覚えてはいませんが、ハンドドリップで淹れた無糖のブラックコーヒーを飲んだ時に、初めて「美味しい!」と感じました。
それ以来、無糖のハンドドリップコーヒーが大好きになりました。

そんなコーヒーも、最近ではスペシャルティコーヒーという高品質コーヒーが世間で認知されるようになってきました。生産者がはっきりしていて、安心安全。高品質な上に味も文句なし。
世界には、まだまだ知られていないコーヒーがたくさんあります。
美味しい自分好みのコーヒーに出会ったときは、「お宝発見!」の感覚。まさに発掘隊員の気分。
そして、ひとつ付け加えさせていただきたいのが、私事になりますが、前職は鍼灸師でした。
20年以上、患者さまの健康に携わってきました。人の健康を考えるときに、基本となるのが食事です。食事や栄養について多くの時間を割いて勉強してまいりました。
その中で、栄養素はもちろん大事ですが、もっと大事なことは、笑顔で心の底から美味しいと思えることです。美味しいと感じるその背景には、体にとって安全なものを口にできるという絶対的な安心感。この安心安全があることで美味しさは倍増します。

スペシャルティコーヒーは、豆の種類だけでなく、生産国、生産者さん、どこのコーヒー農園であるかもはっきりしています。
道の駅で売っている野菜で、「~さんのミニトマト」みたいな安心感と同じ感覚です。
現在、スペシャルティコーヒーは小規模な農園で生産しているところが数多くあります。
ひと昔前は、ほとんどが大規模農園で生産し、大手輸出企業などを通して輸出されていました。
農園の大地主や大手焙煎会社、輸出企業などが大きな利益を得る一方で、農園従事者は非常に低賃金という現実です。今でもそのような仕組みになっているところもありますが、スペシャルティコーヒーの認知が広がっていることで、個人経営の小規模農園にスポットライトが浴びています。
小規模農園のスペシャルティコーヒーを多くの人に知ってもらい、コーヒー需要が高まることで雇用が生まれ、利益は地域に還元されます。まさに地域活性化です。
住んでいる国は違えど、地域活性という思いは共通しています。

スペシャルティコーヒーは高価であるというイメージを持たれている方も多いと思いますが、先程も申し上げた通り、生産地域では様々な方がコーヒー栽培に携わり、生活しています。
その生産者さんが、これからも安定してコーヒーを作っていく為には、適正な取引価格が必要です。これがフェアトレード(公正な取引)です。
安価で買いやすいコーヒーに慣れてしまっているのは、仕方のないことである一方で、フェアトレードという事実を知っていただくと、誰かが法外な利益を得て高価なコーヒーになっているということは決してない。ということを理解していただけると思います。
その適正価格でスペシャルティコーヒーを提供していきたいと思っております。

医療従事者としての視点から美味しさだけでなく、コーヒーの健康効果にも注目しています。コーヒーはいわゆる嗜好品として扱われています。カフェインも含まれており、飲めない方がいるのも事実です。
しかしながら、コーヒーの未知なる可能性として単なる嗜好品という枠に留まらない素晴らしい健康効果があります。
カフェインが多く含まれるイメージがありますが、実は今、大ブームの抹茶とそれほど含有量は変わりません。カフェイン自体も悪いものではなく、運動パフォーマンスの向上や脂肪燃焼効果もあります。
ポリフェノールは赤ワインに次いで多く、抗酸化作用により心筋梗塞、脳梗塞の予防、呼吸器の機能改善など、様々なポジティブ効果があります。
そして、何より素晴らしいのが、香りによるリラックス効果。このアロマ効果で自律神経は安定します。
そのような効果も期待される、美味しいコーヒーを是非皆さんに味わっていただきたい。

そして私自身まだ、味わったことがない未知なるコーヒーを発掘したい。そんなワクワク感を与えてくれるのがスペシャルティコーヒーです。
私は、電気のプロではありません。電気屋さんを引き継ぐことはできませんが、美味しいものや安心安全なものを探し当てる嗅覚は鋭い方であると自負しております。
奇しくも、この河合町佐味田は周辺に古墳がたくさんあります。弥生時代の土器なども多数、発掘、出土しています。
「吉川電気商会COFFEE ROASTERS」は「発掘」がコンセプトです。
未知なる味を「発掘」し、心の底から美味しいと思えるものを提供したい。
コーヒー焙煎を通して、皆さんに美味しい味を発見、発掘していただきたい。
皆さまの笑顔を増やすことで、地域活性に少しでもお役に立てれば嬉しく思います。

これからの時代は、「精神的な豊かさ」が重要になってくると確信しております。
祖父は当時の時代背景から、「物質的な豊かさ」を提供し、社会に貢献してきました。
「吉川電気商会COFFEE ROASTERS」は美味しいものを通して、「精神的な豊かさ」を提供し、社会に貢献していく決意でございます。